木の家具があるくらし #4
フリーハンドイマイ

#4 家具ができるまで「静のテーブルと動のテーブル」

ある冬の朝、お近くにおすまいの私と同年代のご家族がお見えになり、にこやかにこうお話してくださいました。 「ダイニングテーブルを探しているのです。リビングの空間が円形ということもあって、丸いテーブルで、かつ1本脚のものをずっと探しておりまして。この工房のことを知って相談に伺ったのです。デザインはね、もうお任せいたしますよ。」もともと、ゼロの状態から物を生み出す仕事をしておりますが、仕事の性質上クライアントと顔を合わせながらお互いの思いをつむぎあげて一つの形を作りだしていくというプロセスで進めることが多いのですが、こう全てをお任せにされてしまうと、ムムムと少し黙り込んでしまうのでした。「ありがとうございます、良い形を作りだせるように頑張ります。」とは言ったものの、なかなかまとまらず・・。しかし、まずは思いきって自分の好きなものを詰め込んでみようと思い、あれこれ盛り込んだ形で模型を作ることにしたのです。モチーフとして選んだものは、大好きな造形のJeanのアントニーチェアやゲリドンテーブルのような「美しい直線と曲線を持った工業製品的な要素」そして、無骨な印象にはしたくなかったので、「面と線だけでできる繊細な構成」そして、1本脚のテーブルの弱点である不安定なぐらつきをなくして「繊細でも剛健な作り」と3つの要素でした。工業製品として量産できるように部材は簡素化して、繊細さを出すために12mm厚のブーメラン状の5枚のプレートを9φのパイプと組み合わせるために放射状に並べ、パイプとプレートが互いを支える構造とし、プレート同士は接することなく自立させています。また、剛健な作りにするためには、私が趣味で愛用しているトラックバイクの技術で「競輪選手が剛性を出すためにスポーク同士を溶接することもある。」という話を聞き、パイプの交点も溶接することで十分な剛性を出しています。
また、放射状に並んだ足のおかげで実際に使用してみると、足を無理なく伸ばして座ることができたのは大きな収穫でした。 そして、お客様にもこの試作品を見て大変喜んで頂き、次の本製作へとつながっていったのでした。

脚部の構造を変えずに木製で実現させることでナラの導管の表情とこの構造の独特の表情が幾何学的な形状の脚部に有機的な印象を与えています。天板越しに脚の中心を臨むことができ、その構造の妙がご覧いただけます。

同じく円卓の製作を検討されていたお客様が「静のテーブル」をご覧になってひと言、「これが木でできたら素晴らしいよね。」とおっしゃいました。
以前にも何度か鉄脚のテーブルを見て「これが木で・・」というお話が出たことはあったのですが、「そうですね、いつか作ってみたいですね。」なんてお話の種にはしていたのですが、今回のお客様は古くからお付き合いのあるお客様ということもあって、「素晴らしいよね。」と言った後の目の力がグッと強い様子を私はあいにく見逃すことができませんでした。そして、私は「ああ、これはもうきちんと考えなくてはいけない時が来たのだ。」と観念して再びムムムと黙り込んだのです。
さてどういうふうに作ろうかと悩みます。難しいのはやはり構造。ただ、接着するだけでは接合部は持たないですししっかりと組んだつもりでも長年受けるストレスで接合部が緩むのはいけません。さらに今回は天板をガラスにしたいというご要望。構造がきちんと見えるのは美しいのですが、天板と脚部を固定できないということでより難しい形が求められたのでした。
ブーメランの部分は2つのパーツを蟻組みにすることで、十分な強度を出すことができ、蟻組みの部分のみ材を太くして、先端と根元に進むにしたがって材をうすくすることで鉄の脚と同じく繊細な印象を出しています。大きな課題だった脚同士をつなぐパイプの部分は曲げるのではなく組んでいくことで鉄のパイプの印象を表現することに決めました。1本のパイプが3本の脚に接することで互いの固定しているその方法を実現するために、まずは脚の角度を考慮して、「剣留ほぞ継ぎ」製作することにしたのです。試作をしてみて2週間ほど使用してみてたところ問題も起きなかったので、本製作に入り無事納品したのですが、お客様が2週間ほど使用したところで、「実は‥」とお電話を頂いたのでした。
普段通り使っていたら十字の部分が外れてしまったということ。幸いガラスが落ちたりして怪我することはなかったのですが、急いで引き取り原因を突き止めて再度試作をすることに。
長いお付き合いから頂いた信頼のおかげで、「大丈夫ですよ。ゆっくり良いものを作ってください。」と温かい言葉を頂き、あらためて十字の交差部分の強度試験。2度目の試作は、「組むのではなく削り出した部材にすること。」を考えて製作。最終的に3度目の試作で材の向き、木取りの方法をあらためて工夫することで、十分な強度を得ることができたのでした。

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