使う人のそばに寄り添う家具。フリーハンドイマイ

寒川町のオーダーメイド家具店『フリーハンドイマイ』。使う人のそばに寄り添い、暮らしを支えていく家具を提案し続けています。手がけるのはテーブルや書棚、チェストなどあらゆる身の回りのもの。その中でも特に評判なのは、木製キッチンです。木製キッチンの魅力はなんといっても、そのやわらかな佇まい。使う木材で印象も大きく変わります。イマイさんはそれぞれの木の特長を生かし、動線や高さの調整はもちろん、好みのテイストまでぴったりのキッチンを数多く作っています。今回はイマイさんのお気に入りの中から、2つのキッチンをご紹介します。それぞれに違った表情を見せるキッチンを、イマイさんご自身のコメントともにお楽しみください。

「オークとステンレスバイブレーションのアイランドキッチン」　　茅ケ崎　T邸

茅ヶ崎というと海を連想しがちですが、山の茅ヶ崎もまた良いところです。このあたりは海からグイッと小高くなった土地で、自転車では登り切れないくらいの急な坂が表れる土地でもあります。その丘が落ち込むところに新居を建てたTさん。地形を生かしてプールまで設置されたとても心地よい平屋のような空間です。床はモルタル、壁は白塗りのシンプルな大空間に設置したのは節が入ったオーク。「ラスティック」や「シャビーシック」と言われるような少しかすれたインテリアが取り入れられることが多くなってきましたが、その根底にあるのは、素材の表情を良く表す気持ちよさなのではないかと思います。石や木、金属の色付けられていない、飾らない、実直な姿は見て触れているだけでも心地よく感じられます。節のある素材というのは、他にはないその時の表情がそこに現れていますので、その楽しさ、豊かさを感じられるキッチンをTさんは希望されたのでした。ただ、私たちつくる側からすると、節があったり、割れがあったりする素材を取り入れるというのは、木の動きが読めない部分もありますので、なかなかおっかないところではあります。

丘に建つ分風は心地良く抜けるでしょうけれど、使い込んでいけばおのずと扉は動き、割れが大きくなる部分も出てくると思われます。「そうなった時はその時考えましょう。だって木なのですから。」そうTさんがおっしゃってくださったので、このとても良い表情のキッチンができあがったのです。今回作らせて頂いたのは、アイランドキッチンと背面の食器棚と下駄箱です。ご主人と奥様がそれぞれ調理に立っていてもストレスを感じさせないのはこの回遊できるレイアウトだからですね。アイランドキッチンのダイニング側はキッチンの手元を少し隠せるように高さのある戸棚を設けています。あまり高さを出してしまうとちょっと野暮ったく見えてしまうので、適度に手元が隠せて、まわりの視界を遮らないようにと、側面は庭に向かって高さを抑えたデザインにしたりと、細かい部分で心地良さが感じられるような形を実現しています。

「クルミとステンレスバイブレーションのL型キッチン」　　つくば　O邸

「国内を旅行することが好きで、自分たちが住む家も毎日旅館に居るように感じられる家にしたいなと思っていたのです。」というOさんは、私よりもまだまだ若いのにとても落ち着いた新居を建てたのでした。棟梁がキッチン以外の家具はほぼ造作したという下駄箱や本棚などからは針葉樹の清々しい香りが漂うなか、キッチンはクルミを使って作らせて頂きました。その天板はステンレスのバイブレーション仕上げの鈍い色あいで、ハンドルは真鍮黒染めのものを使い、レンジフードも黒でまとめています。タイルもつやを抑えた土の風合いが良く出た色あいのものが選ばれていて、なるほど心地良い「和」の空間に仕上がっていますね。

住み始めて間もないですが、針葉樹の床はそこかしこに小さな凹みがあり、自分たちで塗装したという作り付け収納もすでにOさんの色になっています。そこに置かれたこのキッチン。今回は庭を見ながらお料理ができるようにということでL型のキッチンになりました。L型のキッチンでどうしてもネックになるのが、コーナーの収納部分です。今回は上から見るとピーナッツのような形をしたちょっと変わった動きをする棚をつけたのです。金物の動きに合わせて設計するのはなかなかシビアでしたが、こういう機能金物を使って使いやすくできるのはオーダーの良さですね。ここはつくば駅から車を10分ほど走らせると見えてくる居心地よさそうな住宅街で、「このあたりはそれぞれの家は塀を作らないで建てられているのです。」とOさんが教えてくれたとおりに健やかに育つ芝がどこまでも続く中にトントンとリズムよく、皆個性的な表情の家々が立ち並んでいます。そこから少し走ると、中村好文さんが設計したというとても趣のある食堂がぽつんと姿を現したりと、町の色はとても落ち着いているのです。

そういう土地を選んだOさんだからこそ、このような空間ができあがったのでしょうね。これからその楽しみにしている庭に手を入れていくそうで、暮らしはこうして自分たちの手で育んでいくのですね。