それぞれに違った表情を見せるキッチン　フリーハンドイマイ

寒川町のオーダーメイド家具店『フリーハンドイマイ』。使う人のそばに寄り添い、暮らしを支えていく家具を提案し続けています。手がけるのはテーブルや書棚、チェストなどあらゆる身の回りのもの。その中でも特に評判なのは、木製キッチンです。木製キッチンの魅力はなんといっても、そのやわらかな佇まい。使う木材で印象も大きく変わります。イマイさんはそれぞれの木の特長を生かし、動線や高さの調整はもちろん、好みのテイストまでぴったりのキッチンを数多く作っています。今回はイマイさんのお気に入りの中から、2つのキッチンをご紹介します。それぞれに違った表情を見せるキッチンを、イマイさんご自身のコメントともにお楽しみください。

「白の魅力」茅ケ崎 Y邸

もうすぐで30年近い付き合いになる友人が茅ケ崎で設計事務所を営んでおります。福原正芳という彼の人柄と彼の作る空間が好きで、私の自宅も彼に設計してもらったのでした。（いつかあらためて紹介します。）彼自身のテイストは決まったものがあるかどうか深く聞いたことがないのですが、クライアントの気持ちをよく汲み取って、様々な色で表現する方法はいつも美しいなと驚かされます。ただその分作りがとても複雑で頭を悩ます形ばかりなのですが。今回のYさんのお宅では、セパレートタイプのキッチンと下駄箱とテレビボードを兼ねた間仕切り家具を作らせてもらいました。Yさんはとてもモダンなご年配の女性で、そこに置かれたソファやテーブルなどを見て、この形が合う空間を作らなくては、と福原さんは思い立ったそうです。そうしてできた空間はホワイトが基調。でも、ただのホワイトではなく、ほんの少しトーンの落ちたホワイト。壁の仕切りを大きく取り払うことで、室内の仕上げもキッチンの塗装色もすべてその色で統一されたYさんの空間は、黒革の独特のデザインのソファも、素材のあらあらしさが出ているテーブルもしっかりと存在感が生まれて、そして何よりもとてもきれいな影が映える場所になったのでした。

「エッセンス」茅ケ崎 K邸

茅ヶ崎にご新居を立てるKさんのキッチンは、今までの形にはない魅力が詰まっていたのでした。何事も家族みんなで作ってしまうという心掛けのKさんご家族。このお仕事をさせて頂く前に、雑誌のモデルでもあり、ライター兼エディターでもあるという奥様の記事を読ませて頂き、最近の言葉でいうところの「エシカル」というのでしょうか。さまざまな物事や暮らしかたにはきちんとしたそれぞれの理由や理解があって成り立っている、ということを暮らしの中で体現していらっしゃる方なのだなあと、感心して拝読させて頂いたのでした。そのようなご家族皆さんに気に入ってもらえるというのは私たちとしても大変ありがたいことだと思うのです。さて、そのKさんのキッチンの形を探っていく過程で、とてもおもしろかったことがinstagramというアプリケーションの活用です。私自身もinstagramで気に入った海外のインテリアの写真を保存していたのですが、Kさんが見せてくださった写真の中に私が保存していたものと同じものが多くあって、あぁ、なるほど、私たちに声をかけてくださる皆さんはやはりどこか感覚が似ていらっしゃるのだなあとあらためて思ったのでした。今回その特徴を取り入れた部分としては、吊戸棚の見せ方。一般的には外側に表情のある木目を持ってくることが多いのですが、海外のものは意外にも内部に木目を持ってきて、表面はもっとシンプルな無地単色が多いのです。扉や引き出しを開けてみて、「ここにこの木を使っていたのか。」と初めて気づく仕上がりになっていたりします。それをKさん、さっそく吊戸棚に取り入れました。ちなみにこの白い部分はKさんご家族がベンジャミンムーアさんのペイントで仕上げています。そしてキッチンキャビネットのデザインも独特で、インセット（家具の縁を見せる納め方）のデザインを強調するように角材が規則正しく並ぶ姿と、表面に使用したオークの表情のコントラストがとても美しい仕上がりになったのです。こうすることで、なるべく「収納」という印象を消すことができたのではないかと思います。ただ、見た目ばかりを優先すると使い勝手が悪くなることが多いので、内引き出しを多用したり、調味料をしまいやすくしたりと、収納の形はKさんの暮らしかたに合わせて工夫しています。天板に採用したクォーツエンジニアドストーンのシーザーストーンと、帝国ホテル煉瓦製作所を率いた伊奈親子の話に触発されて採用したリクシルのタイルの表情ともとても良くあう形に仕上がりました。ものができあがっていく理由と過程とその姿の美しさをあらためて教えてもらったお仕事だったのです。